
最新の無痛インプラントをエビデンスベースで解説します
インプラント治療を行う上で、患者さんが最も心配なのはインプラント治療における痛みではないでしょうか。当院ではまだ日本では一般的にはなっていないものの、世界で無痛治療のスタンダートとなっている疼痛の管理方法を採用しております。その根拠となっている論文を交えて解説していきたいと思います。
術後痛みを感じる患者さんは当院では非常に稀

この疼痛管理方法を行うようになってから、私の体感としては通常のインプラント治療を行った95%の患者さんでは殆ど疼痛を感じていません。
インプラント治療を行う上で、ポイントとなるのは術前と術後の投薬プロトコールとなります。
世界的に無痛インプラント治療の根拠とされているが日本ではまだあまり広まっていない論文を読み解いていきます。
下の論文は2013年にPaul A Mooreらによって出された論文となります。この論文はシステマチックレビュー(システマチックレビューについて知りたい方はこちら)と呼ばれ、論文もその信頼度は様々なのですが、最も信頼性の高い論文とされるものとなります。クリックすると要約(アブストラクト)のリンクに飛ぶ事ができるためマニアックな方は原文を確認して頂いても良いかと思います。(ただし英語です)
この論文が出た背景として、日本では終末期医療でしか使用されないような麻薬系鎮痛剤が海外では使用される事が多く、鎮痛効果は絶大ですが一般人に使用するにはその依存性などが世界的に問題となっている事が挙げられます。そこで考えられたのが今回のプロトコールでもあり、日本でもおなじみの薬を併用する事で麻薬系鎮痛剤以上の効果を発揮する事がわかってきました。
これがNSAIDs(日本だとロキソニンがこれに当たる)とアセトアミノフェン(日本だとカロナールがここれに当たる)を同時に併用して服用する方法です。
この論文ではNSAID と APAP 併⽤の有効性を検証するために、⽂献レビューが⾏われました。著者がこれらのレビューに使⽤した計算統計は「治療必要数 (NNT)」であり、これは「プラセボと⽐較して、4
〜6 時間の間に少なくとも 50%の最⼤疼痛緩和を達成する患者を 1 ⼈追加で得るために治療す
る必要がある患者数」と定義されました。つまり、NNT が低いほど、鎮痛効果が⾼い。
結果は、麻薬系の鎮痛薬よりも、NSAID と APAP 併⽤の方が鎮痛効果が高い事がわかりました。
(詳しくは論文を参照してください)
麻薬系の鎮痛剤よりも、ロキソニンとカロナールを費用して服用した方が鎮痛効果が高い

驚く事に、麻薬系の鎮痛剤以上の鎮痛効果が日本でも有名なこの鎮痛剤を併用すると得られる事がわかってきました。これは作用機序の違う薬がそれぞれの機序で作用するためだと考えられています。(アセトアミノフェンの作用機序は正確にはわかっているわけではありませんが)
肝心の副作用ですが、これはロキソニンを単体で飲んだ場合、カロナールを単体で飲んだ場合の副作用と類似しているため、併用によって新たな副作用が出る事はないとの事です。
当院ではこの鎮痛剤のこのプロトコールを採用するようになってから、殆どの患者さんから痛みがなかったと仰って頂いております。
無痛治療の投薬プロトコールに関する結論
- インプラント治療1時間前にロキソニンとカロナールを併用
- 術後も6時間置きに痛みを感じなかったとしても最低2日以上はロキソニンとカロナールを併用して服用する事で、麻薬系鎮痛剤以上に鎮痛効果を得る事が可能
続いて術後感染を防ぐ抗生剤の適切な服用方法を探る
~日本でよくある術後の抗菌薬投与は意味がない?~

続いてはもし痛みが出た際に、強い痛みの原因となるとされる術後の細菌感染について最新の知見を勉強していきましょう。
実は世界から見た時に、日本は鎮痛薬は投薬しなさ過ぎで、逆に抗生剤は出しすぎであると言われています。鎮痛薬に関してはこのページで既にお話してきたので、抗生剤についてなぜそのように言われてしまうのか、また適切な抗生剤投与はどのように行われるべきか解説していきます。
そもそもインプラントの手術において細菌感染してしまうインプラントはどの位あるのか

インプラントの埋入手術は必ず成功するのかどうかに関して、知りたい方は多いのではないでしょうか。様々な論文でインプラントの細菌感染の確率が報告されており、おおよそ2%から5%の確率で感染が起こるとされています。つまり、インプラント埋入手術はどれだけ丁寧に治療を行っても100%成功するわけではなく、誰が治療しても失敗する時はある事は論文的にも証明されています。一度細菌感染してしまったインプラントの7割は再度の手術が必要となります。代表的な論文を2つほど貼って要約しておきます。興味がある方は読んでみると面白いかもしれません。
Postoperative Infections After Dental Implant Placement Prevalence ,Clinical Features,and Treatment
- ・337名の患者さんに1237本のインプラント治療を行った
- ・抗生剤の前投薬はなし、術後投薬あり
- ・22症例において術後の感染が認められた。
- 患者レベルで6.5%、インプラントレベルで1.7%
- ・インプラント埋入から感染発覚までの期間の中央値は28日であった
- ・980名を対象とした後追い横断研究
- ・アモキシリン2gを術前投与してインプラントを埋入した
- ・患者レベルで3.46%で術後感染が認められた
- ・喫煙、骨移植。抜歯即時埋入などがインプラント喪失のリスクファクターである事がわかった
インプラント手術の成功の確率を上げる投薬方法
では、インプラントの手術成功の確率を上げるためにはどのような投薬方法を選択するのが良いのでしょうか。とても有名な論文(システマチックレビュー)を要約すると
- 術前1時間に2gまたは3gのアモキシリンを1回経口投与することで、インプラントの失敗を有意に減少させることができる
- 術後の抗生剤が有益かどうか、またどの抗生剤が最も効果的かは不明
となっています。つまり、抗生剤を手術の1時間前に投薬する事で、数%ながらも成功率を上げる事ができる反面、術後の抗生剤の服用に関しては他の論文含めいくら検証しても有効だったという結果が出ていません。日本では術後の抗生剤の服用が一般的ですが、耐性菌の問題もあるため効果のない抗生剤の投与は避けるべきだというのが世界的な流れとなっています。
薬物耐性菌の問題は世界的に非常に重たく考えられており、効果があるとされている術前の抗生剤すらも数パーセントの成功率のために投与するかは世界的には慎重になっています。
ですので、少しでもインプラント治療の成功率を上げたい場合は抗生剤を術前に投与すべきですし、耐性菌の話を聞いて、やめておこうとするのもそれはそれで正義ではあるのです。
最もよくないのは、術後の意味がない抗生剤の投与であるのは間違いありません。
当院では患者さんの希望に沿って抗生剤を術前投与するか判断しております。
論文一つでは説得力にかけると思いますので、もう一つ以下に論文を提示し、要約したいと思います。
要約
- 多施設共同のランダム化比較試験
- 実験群:アモキシリン術前2g投与
- プラセボ群の術後感染は4.72%
- 実験群の術後感染は1.98%
- ただし有意差はでなかった
この論文では統計的な有意差を証明するまではいかないまでも、やはり抗生剤の術前投与の方が成績が数パーセント有利でありました。
抗生剤の術前投与に関する結論
抗生剤の術前投与はインプラントの失敗を数%減少させることができる
まとめ

- 最新の投薬プロトコルにのっとれば麻薬系鎮痛剤以上の鎮痛効果を私達が普段から馴染みのある鎮痛剤で得る事ができる。
- その際の副作用は個々の薬剤を投与したものと変わらないため安全性が極めて高い
- 術後の感染やインプラント治療の成功率を上げたいのであれば、術前に抗生剤を投与すべきである
- 術後の抗生剤の服用は意味がない可能性が高く、薬剤耐性菌の問題的にデメリットが大きい
最新の無痛インプラント治療を受けたい方はNSデンタルオフィスへ
当院では1本のシンプルなインプラント治療から、オールオン4やオールオン6などの歯が全くない方へのインプラント治療まで様々なインプラント治療を行っております。
全てしっかりとしたエビデンスベースの治療を提供しているため様々な状況に対応する事が可能です。
インプラントに関する相談は無料で行っておりますので、ご希望の方はお電話にてご予約頂ければと思います。