インプラントの手術の成功率は論文によって若干の差があるものの、おおよそ95%程度と考えられています。つまり大学病院であっても個人医院であっても100%インプラントの手術が成功し、インプラントと骨が正常に結合するわけではありません。どんなに丁寧な手術を行っても、このインプラントと骨の結合がうまくいかない理由ははっきりと解明されていませんが、明らかに手術の成功率を下げるリスクファクターが存在することは知られています。

また、手術の成功後にインプラントの長期間の予後を追っていくと、インプラントがインプラント周囲炎というインプラントの撤去につながりかねない状態となる確率を上げてしまうリスクファクターもわかっております。

ここでは、インプラントの短期的な失敗である手術後に骨とインプラントが結合しない失敗と、長い期間で見た際にインプラントにインプラント周囲炎が発生し、インプラントの撤去につながりかねない状態となりやすくするスクファクターをエビデンスベースで解説していきます。

  • インプラントは短期的な失敗と長期的な失敗の2つの視点で評価される
  • インプラントの短期的な失敗はインプラントと骨が上手く結合しない事(オステオインテグレーションしない)
  • インプラントの長期的な失敗はインプラント周囲炎というインプラント版の歯周病のような状態となりインプラントの周りの骨が失われていく事

インプラントと骨の結合の失敗に関するリスクファクター(短期的な失敗)

考え込む人

続いてはインプラント手術を行ったが、インプラントが骨に生着せず失敗に終わる可能性を増大させてしまうリスクファクターについてです。

①以前インプラント治療を失敗している

以前にインプラントの手術が失敗した部位へのインプラントの埋入は失敗リスクが高いことが知られています。やはり一度失敗する部位にはそれなりの理由があるということなのでしょうか。失敗する度に再手術の成功確率が低下してしまいます。以下の論文では1回目の手術の成功率、2回目の手術の成功率、3回目の手術の成功率が記されています。

埋⼊された10,096本のインプラントのうち、642本(6.36%)が失敗。2回⽬のインプラントは159の部位に埋⼊され、失敗率は26.42%でした。3回⽬のインプラントは14⼈の患者に埋⼊され、失敗率は35.71%でした。このように失敗するたびに再手術の成功率が低くなってしまいます。

Chrcanovic BR, Kisch J, Albrektsson T, Wennerberg A. Survival of dental implants placed in sites of
previously failed implants. Clin Oral Implants Res. 2017 Nov;28(11):1348-1353.

②SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を服用している

SSRIはうつ病の治療で使用される薬です。以下の論文でSSRIはインプラントと骨との結合(オステオインテグレーション)の失敗リスクを増加させることが示唆されました。

X Wu, K Al-Abedalla, E Rastikerdar, S Abi Nader, N G Daniel, B Nicolau, F Tamimi. Selective
serotonin reuptake inhibitors and the risk of osseointegrated implant failure: a cohort study. J Dent Res.
2014 Nov;93(11):1054-61. PMID: 25186831

③PPI(プロトンポンプ阻害薬)

PPI(プロトンポンプ阻害薬)は胃酸の分泌を抑える薬で、胃潰瘍や逆流性食道炎などの治療や予防に用いられます。PPIは骨形成に悪影響があることがしられており、以下の論文にてインプラントと骨の結合の失敗リスクの増加に関与していることが示唆されています。

Xixi Wu, Khadijeh Al-Abedalla, Samer Abi-Nader, Nach G Daniel, Belinda Nicolau,
Faleh Tamimi.
Proton Pump Inhibitors and the Risk of Osseointegrated Dental Implant Failure: A Cohort
Study. Clin Implant Dent Relat Re.. 2017 Apr;19(2):222-232. PMID: 27766743


インプラント周囲炎のリスクファクターについて(長期的な失敗)

以下の論文はSchwarz Fらが2018年に発表した論文で、多くの論文をまとめてレビューしたものとなります。

Peri-implantitis. J Periodontol 2018; 89 (Suppl 1): S267-S290.

この論文では以下の項目がインプラント周囲炎のリスクファクターであると述べています。

①過去の歯周炎(歯周病)の既往

過去に歯周炎の既往がある患者では、インプラント周囲炎の10年間の発症
率が29%で、既往歴がない患者の6%に⽐べて有意に⾼い(オッズ⽐=5-6)

②喫煙

喫煙はかなり昔からインプラント周囲疾患との関連が⽰されてきました。Karoussisらは、喫煙者の18%
のインプラントがインプラント周囲炎を発症したと報告している。他にもRinkeら、Becker ら、Roos-Jansakerらがそれぞれ報告しています。

③インプラントのコンプライアンスが悪い(プラークコントロールが悪い、メンテナンスに来院しない)

不⼗分な⼝腔衛⽣とメンテナンスの⽋如は、インプラント周囲炎のリスクを増加させます。

Roccuzo らは、10年後にメンテナンスを受けていない患者の49%が、定期的なメンテナンスを
受けていた患者の27%よりもインプラント周囲炎に対する治療が必要であったと報告している。

メンテナンスの時にプラーク(歯垢)が存在することが、インプラント周囲炎の最も強⼒な予測因⼦となっていました。


一方でインプラント周囲炎のリスクファクターだと考えられていたがそうでもなさそうな要素

歯

これは糖尿病です。糖尿病はインプラント周囲炎のリスクファクターであるとかねてから考えられていましたが、実際はそうではない可能性が高いと考えられるようになりました。Costaらによると、糖尿病患者とインプラント周囲粘膜炎を有する患者が、糖尿病でない患者に⽐べてインプラント周囲炎を発症しやすいわけではないとされています。


質問の多い骨粗鬆症の服用薬とインプラント治療について

BP製剤(ビスフォスフォネート製剤)を服用している患者さんは外科的侵襲のある治療を行うと顎の骨が壊死(死んでしまう)する可能性があることが知られており、この薬を服用している患者さんは多いためよくインプラント治療に際してのリスクのお問い合わせを頂くため解説致します。

結論、BP製剤を経口で服用している患者さんにおいて、インプラント治療の成功率や予後に影響があったという報告は今現在存在しません。以下の論文で全く差がなかったことが報告されております。

Fugazzotto, P., Lightfoot, S., Jaffin, R., Kumar, A.
Implant Placement with or without Simultaneous Tooth Extraction in Patients Taking Oral
Bisphosphonates: Postoperative Healing, Early Follow-up, and Incidence of Complications in Two
Private Practices. J. Periodontol. 2007;78:1664-1669.

ただし、インプラント治療の成功率がBP製剤を服用しているからといって下がるわけではありませんが、外科治療における顎骨壊死の可能性は他の手術と同様だと考えられているため、服用中の患者さんの服用歴によっては顎骨壊死のリスクが高い場合もあると考えられるため注意が必要です。

基本的にはインプラント治療の成功率が下がるわけではない事から、手術ができないわけではないが、それなりにリスクがあると捉えて頂ければ良いと思います。

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