プロ目線から見たインプラントの成功とは
様々な医院でインプラント治療を行っており、患者さん目線からではどのようなインプラント治療が本当に腕の良い歯科医師による治療なのかどうかがわかりにくいため、しっかりとしたやり直しの無いインプラント治療とはどのようなものかを解説していきます。
レベルの高いインプラント治療を判断するポイントは以下の3つ
①インプラント周囲炎によりインプラント治療が失敗に終わらないように、インプラントのみならず、お口の中全体の歯茎の状態が良好にコントロールできている事。
②理想的な被せ物の配置から想定されるポジションにインプラントが埋入されている事。抜歯後の骨は頬側の骨を中心に無くなってしまっているケースが多く、どうしても骨が残っている部分にインプラントを埋入すると内側よりに位置づけられてしまい、理想的な被せ物の位置がズレ、噛み合わせに無理を生じたり、清掃性に問題が出てしまうため、そうならないような理想の被せ物ができる位置にインプラントを埋入するための骨造成ができているかどうかを指します。
③見た目が天然歯のようであり、左右がシンメトリーであり特に前歯がインプラントをしたと気づかれない事。これは歯と歯の間の歯間乳頭と呼ばれる三角形の部分、歯茎のスキャロップ形態と呼ばれる、貝殻状の連続性のある隣の歯からの流れが乱れていない事、被せ物の形、色などの事を指します。これにはティッシュマネージメントと呼ばれる歯茎のコントロールが不可欠です。
①歯茎の炎症のコントロールに関して
インプラント治療の最終的な目的はインプラントを埋入する事では無く、インプラントにより、失った機能を回復する事でお口の中全体が長期的に良い状態で安定する事にあります。
インプラント治療は非常に予後の良い治療で10年予後が90%以上と報告されており、ブリッジや入れ歯と比較し非常に長期に安定した治療と考えられております。しかし一定数の患者さんは10年も持たないうちに再度インプラント周りの歯周病が進行し(インプラント周囲炎)、インプラントがダメになってしまうのもまた事実です。
インプラント周囲炎によりインプラントを喪失してしまう患者さんの多くが、そもそも残っている健康な歯の歯周病の進行がきっちりと止まっていないにも関わらずインプラント治療を行ってしまっており、天然の歯の歯周病が進行してしまうのですから人工物であるインプラントも当然歯周病が進行してしまいます。
ですから、インプラント治療を行う上で大切な事は、インプラント治療を行う前にしっかりと残っている歯の歯周病のコントロール(=歯茎の炎症のコントロール)が行われている事となります。
上の前歯に強い炎症のある歯肉。他の部位は炎症は無くとても健康な歯茎の色をしています
残っている歯の健康が長く維持できる事を確信できなければ、インプラントが長く持つ事は確信できません。
ですから、長く持つインプラント=残存歯の歯周病のコントロールがしっかりと行われている事となります。
ここで、良い歯周病の治療とはどのようなものなのか?と言う話が気になってきます。
このお話しを詳細にしていくと本題とドンドンとズレていってしまうので詳細はこちらのリンクで解説致します。(結果を出すための歯周病治療)簡単にお話しすると、歯周病の治療の目的は炎症のコントロールであり、私は軽度の歯周病は非外科的に治療を行い、重度の歯周病は歯茎の極端な退縮を避けるため、非外科的な治療では炎症のコントロールに限界がある事が多いために歯周外科と呼ばれる歯周病の手術(近年の歯周外科は侵襲が小さく痛みは少ない)を前提で治療を進めるべきだと考えています。
残念な事に、よく当院にいらっしゃる患者さんの中に、3か月に1度クリーニングで歯医者に通院していたはずなのに、いざ検査をしてみると炎症のコントロールができてない方が非常に多いように感じます。
これは本来は歯周外科と呼ばれる手術が必要な状態にも関わらず、歯科医師側でこのような外科手術を行う技術を持ったドクターがあまり多くないという実情があったり、手術の説明やそれによる患者さんの拒否反応により、妥協の無い治療を目指す事を諦めてしまったりという事が原因だと考えられます。
歯周病を本気で治したい場合、患者さんもドクターサイドもかなりの熱意が必要であり、それにはお互いの信頼関係も必要です。当院でも歯周外科手術の説明をさせて頂いても、患者さんに良くなって頂きたいと言う気持ちでの治療提案ではあるもののあまり好意的に受け取って頂けないケースもございます。
軽度~中等度の歯周病の方であれば非外科的に歯周病の治療を行い、インプラント治療を行う事が可能ですが、重度の患者さんで歯周外科を行わないとなると炎症のコントロールが難しくなってしまう事が多く、そのような場合、長期に安定したインプラント治療も難しくなってしまいます。
ですから我々歯科医師から見た良いインプラント治療とは、インプラント以外の残存している天然の歯の歯茎の状態を見た時に炎症のコントロールがしっかりとできている事となります。歯周病の治療というのは患者さんが考えているより重度になればなるほど技術的に難しく、そして根気のいる治療だからです。
本当に患者さんの事を考えているレベルの高い歯科医師は歯周病のコントロール無しにインプラント治療を行わないのです。
②骨造成に関して
インプラントは骨の中に埋入するものです。しかし、抜歯後の骨は骨吸収してしまうため、主に頬側の骨が無くなってしまいます。残った骨にインプラントを埋入すると本来根が埋まっていた部位よりも内側にインプラントが埋入される事となり、本来歯があった位置とは違う位置に被せもの(補綴物)が来る事となり、噛み合わせや見た目の左右対称性、異物感、清掃性の悪さ、発音の際の違和感など様々な問題を引き起こします。
レベルの高い歯科医師であれば、特に前歯に関しては何らかの工夫をして本来歯の根があった部位付近にしっかりと被せ物が位置する事ができるようにインプラントの埋入位置を決定します。(一般的に前歯に関しては意図的にやや内側に配置する)
しかし理想の位置にインプラントを埋入しようとするとその部位の骨が吸収してしまい無くなっている事が殆どです。そこで骨造成と呼ばれる骨移植を行う事で理想的な位置にインプラントが埋入できるように骨を作っていく事となります。
インプラントが上手な先生はこの骨造成を巧みに行い理想的な位置にインプラントを埋入しています。しかし、骨造成は状態によって様々なやり方がありますが、歯茎を切開し、骨移植をし、テンションフリーで縫合し、感染を起こさず理想的な形に骨を仕上げる事は非常に高い外科的な技術とセンスが求められます。
特に大規模な骨造成が必要な時に行うチタンメッシュ骨造成やサイナスリフトと呼ばれる鼻腔の粘膜下への骨造成は非常に難易度の高い手術とされており、外科の基本的な技術がしっかりとしている様々な難症例と向き合ってきた先生にしか到達することができない領域の手術であったりします。
左・・抜歯により薄くなってしまった骨
右・・骨造成して厚みのある骨
あくまで私の個人的な意見となりますが、そのレベルのインプラント治療を行える先生が行ったインプラント治療は非常に美しい位置に埋入され、簡単な症例であっても普段簡単な症例だけ手を出すと仰ってる先生よりもかなり深い洞察力を働かせて治療を行っている事が間違いなく多いように感じます。切開線ひとつとっても確かな外科技術をもった先生の治療は美しく、粘膜弁の虚血や裂開等のトラブルが起こりにくいよう非常にしっかりとデザインされています。
理想的な骨造成を行い理想的な位置に埋入されたインプラントは違和感が少なく、清掃性や機能面でも優れたインプラントとなります。
③治療終了後の見た目の美しさに関して
美しい見た目のインプラント治療を行うためには先ほどの骨造成のみならず、高いレベルの軟組織のマネージメント能力が求められます。歯と歯の間には歯間乳頭と呼ばれる三角形の歯肉の部分が存在します。インプラントにおいて被せ物と被せ物の間の歯間乳頭の再現は難しく、うまく歯肉のボリュームをコントロールする事でその部位が見ため的に目立たないようにし、ブラックトライアングルと呼ばれる状態を極力避ける事は、見た目の美しさのみならず、清掃性、息漏れによる発音障害を引き起こさないために非常に重要です。
また、被せ物の頬側の歯肉の厚さは一定以上の厚みがある事で長期的に歯肉に炎症が起こりにくく、見た目も長きに渡って安定した美しさを保てる事がしられています。抜歯後の歯肉はどうしてもボリュームが失われてしまうため、ボリュームを得るためには結合組織移植と呼ばれる歯茎の移植が行われます。
インプラント治療において最もマニアックで患者さん目線ではわかりにくい事かもしれませんが、インプラントの1流の先生方は皆この歯肉のボリューム、そして歯間乳頭のコントロールをかなり長期的に審美障害が起こる事がないように重要だと考えています。
インプラント治療において、軟組織のトリートメントまで言及したり、歯肉の移植を提案する先生はかなりレベルの高いインプラント治療を行っている先生だという一つの判断材料となります。なぜなら仮に妥協しても患者さんにはわかりにくい所の一つでありますし、非常に高い技術力が求められるからです。
以上が私の考えるインプラント治療の成功です。
歯周病のコントロール、骨のコントロール、歯肉のコントロール。この3つが確立されたインプラント治療はインプラント治療のレベルの高い意味での成功と言う事ができるのではないでしょうか。
まだまだ細かいプロ目線の視点がありますが、今後少しづつ情報発信する事ができればと考えております。
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