保険治療と自費治療に関して、自費治療の方が見た目が圧倒的に良いというメリットがありますが、見た目は抜きに自費治療の方が歯の健康を長く保つ事ができるかどうかを様々な論文を読み解きながら解説していこうと思います。

保険の被せ物の成功率

2008年に青山貴則が公表した「臼歯部修復物の生存期間に関連する要因」によると各種被せ物の10年生存率は以下の通りとなりました。

  • メタルインレー(銀色の詰め物)             67.5%
  • コンポジットレジン(プラスチックの詰め物)       60.4%
  • メタルクラウン(銀の被せ物)              55.8%
  • メタルブリッジ(歯を失った部分への銀歯による橋渡し)  31.9%

保険の銀歯は10年後におよそ半分程度は成功して残存しており、保険のブリッジは70%が失敗に終っている事がわかります。

自費の被せ物の成功率

ではこの数値は高いのか低いのか海外の被せ物(日本だと自費治療)と比較してみましょう。

  • ゴールドクラウン(金歯)       25年生存率           94.9%
                       40年生存率           94.1%
  • メタルボンド             10年生存率           90% 
                       20年生存率           78.8%
  • e-max(二ケイ酸リチウムのセラミック)16.9年生存率          96.49%
  • ジルコニア(マルチレイヤー)     7年生存率            99.1% 

金歯に関する論文の引用 PMID 15597641 Donovan 2007
メタルボンドに関する論文の引用 PMID 23522363 Reitemeier 2013
                PMID 30209575 Reitemeier 2019
e-maxに関する論文の引用 PMID 33010922 Malament 2021
ジルコニア(マルチレイヤー)に関する論文の引用 PMID 35850872 Valenti 2023

日本の保険治療の成功率と比較して、海外は10年以上の予後は90%を超える事が当たり前となっております。海外と同様の治療は保険治療では行う事ができず、日本でこれらの材料で治療を行おうとすると自費治療となります。

考察

日本の保険治療は自費治療で使用できる材料と比較してかなり成功率が悪く、10年時点の生存率に大きな違いがあります。金属代の高騰を受けて保険適用になったCADCAM冠に至っては長期の生存率すらわかっておらず、保険適応になってからこれまでの現時点での生存率を出している大学のDATAを見ると3年生存率が74.9%と悲惨な結果となっております。日本の歯科医療の質が時代と共に材料代の高騰を受けて下がっている事がわかります。
ただ、材料の質の違いだけでなく、海外では1日一桁の人数の患者さんを診療するのに対し、日本では数十人の治療を行うため、いかに時間と手間をかけて治療するかも予後の違いとして現れているとも考えられます。

どのような治療が手間をかけた治療とされるのか知りたい方は当院のセラミックに関するページを読んでください。被せ物の型取りをする際に糸を歯周ポケットに入れて型取りをした事がないなら手間をかけた治療をした事がないと考えて問題ありません。

つまり材料の質は非常に重要ですが誰がどの程度時間をかけて治療するかも非常に大切だという事です。

インプラントとブリッジと入れ歯の比較

歯を抜歯する必要があり、歯を失ってしまった場合はインプラント、ブリッジ、部分入れ歯の選択肢が存在します。

インプラントの予後

まずは保険適応外のインプラントですが、最新のインプラントの生存率に関する論文ですと20年予後93%となっております。これはかなりの生存率となっており、現状インプラントは歯を失ってしまった際の第一選択となります。口コミで得意な治療を押し付けてくると書かれてしまう事がありますが、押し付けは当院では行っておらず、客観的に見て最適な治療を提案しているに過ぎません。自費治療だから患者さんに提案しにくいという、歯科医師側の不安によってこの数値を知っていながらもお勧めしない方が患者さんの利益を損ねているのではないでしょうか。
私が知る限り、インプラントに否定的な先生はそもそも自身が外科的な治療ができないため、インプラントがどういう予後を辿るものなのかすら理解していない方ばかりのように感じます。しっかりとしたインプラント治療の予後とその他の欠損歯列の治療法の予後について明確な数字をエビデンスベースで学んでいれば否定する要素などあまり見当たらないように当院では考えております。
以下、その根拠となるブリッジと入れ歯の予後について解説して参ります。

インプラントの予後に関する論文 PMID 36054302 Roccuzzo 2022

ブリッジの予後

次はブリッジを見ていきましょう。

2008年に青山貴則が公表した「臼歯部修復物の生存期間に関連する要因」によると日本の保険治療のブリッジの10年生存率は31.9%となっております。

De Backerによる2006年の論文では3本分のブリッジで20年の生存率で73%、4本分のブリッジで20年で68%となっております。

  • 日本の保険治療のブリッジの生存率 5年生存率55.6% 10年生存率 31.9%
  • DeBackerの調査した海外で行われたブリッジ 3歯分のユニット 20年生存率73%
                          4歯分のユニット 20年生存率68%

日本の保険のブリッジは10年後のサバイバルレートは3割という結果となっており、海外でも20年予後は7割程度とインプラントの生存率と比較し低い値となっております。
DeBackeの論文にはさらに部位別の生存率、神経の無い歯を含むブリッジとそうでないブリッジの生存率が調べられており、上のブリッジよりも下のブリッジの方が生存率が高い、神経の無い歯を含むブリッジは生存率がかなり落ちる事がわかっております。つまりブリッジの中で生存率が高いのは下の生活歯(神経の生きている歯)のブリッジであるため、下の3ユニットブリッジに関してはブリッジが既にお口の中に入っていたとしてもインプラントに置き換えないという選択肢も有りなのではないかと考えられます。

その他のブリッジに関してはインプラントと比較した時に、虫歯のリスク、歯周病のリスクが跳ね上がるためブリッジは外科治療を行う上で全身疾患があったり、そのほかインプラントを行えない理由がある方の選択肢となりますが、日本の保険のブリッジの10年予後は3割程度であるため、それを理解した上で治療を選択する必要がございます。

ブリッジの予後に関する論文の引用元     臼歯部修復物の生存期間に関連する要因

                      PMID 17165295 DeBacker 2006

                      PMID 18548967 DeBacker 2008

義歯の予後

日本の保険治療における義歯の予後のエビデンスは私が知る限り出ておりません。これは義歯の設計が日本では多種多様となっている事が原因と考えられ、ある程度の同一条件下で数多くのDATAを集める事が難しい事が原因だと考えられます。(本来は義歯の設計はある程度の作法がありますが日本の大学教育では詳しく教育されません)

ただ、下の本が出版されているように歯科医師の中のでは義歯が10年問題なく天然歯を守る事ができると本が出版できてしまう位に10年入れ歯を支えても抜歯とならない義歯は難しいし珍しい事と認識されています。特に被せ物の予後の比較でおわかりになると思いますが、日本の保険治療の精度で良い結果を出すことは難しいと考えられます。


以上を踏まえた上で義歯の成功率に関する海外の論文を見ていきましょう。

Vanzeverenが2003年に発表した論文では、10年経過時点で50%以上の部分床義歯が失敗となっております。隣の歯にダメージを与える事のないインプラントの予後と比較し、義歯の予後がいかに悪いかがわかります。

PMID 12752923 Vanzeveren 2003

また、これとは別に義歯を装着していると顎の骨がやせてきてしまうというデメリットも存在します。

Tallgrenによれば、義歯を入れていると下の顎で年間0.4mm、上の顎が0.12㎜吸収するとの事です。入れ歯を製作しても次第に入れ歯が緩くなっていくのは顎の骨が吸収しているからなのです。

義歯を使用して10年も経過すると下顎では4mmも顎の骨が吸収してしまうためどんどん骨が無くなってしまい、最終的には義歯は顎の骨によって支えられていますから、非常に安定させる事が難しいお口となってしまいます。

PMID 4500507 Tallgren 1972

入れ歯を止めるフックがかかった歯の抜歯リスクは5.5倍と言われており、数本歯がなくなった程度では長期的に見て入れ歯をあえて入れない方が寧ろ予後が良いと考えられるケースもあるため、歯がなくとも何もしないという選択肢を治療計画として十分考慮する必要があります。

考察

ここまで述べてきたように、歯を失った際の治療として考えられるインプラント治療、ブリッジ、入れ歯とではインプラントの長期予後が他を圧倒しているため、第一選択はインプラント治療となります。

しかし、インプラント治療は非常に高額な治療である事や、外科治療を伴うため、お体の状態や持病の関係からブリッジを選択せざる得ないケースもございます。患者さん毎に状態は異なりますので以上の事を踏まえた上で相談しながら診療を進めさせて頂ければと思います。

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